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  媛媛講故事―66

怪異シリーズ 35           15貫(注)Y

                                 何媛媛


 さて山大王と称する強盗は王氏を自分の妻として半年も経たないうちに何度も金持ちの家に押し入っては盗みをはたらきました。そして沢山のお金を自分のものにしましたので暮らしが豊かになってきました。

 最初の内、王氏は山大王を恐れて、何も言う事ができなかったのですが、山大王が自分には常に優しく対応してくれるので、折を見ては山大王に説得するようにしました。

 「この家に入って山大王様のご様子を拝見して、毎日忙しく大変苦労していらっしゃるのだと知りました。しかし、このままでは気持ちも落ち着かないのではないかと思います。お金があるのですから、やはりまともな商売をなさった方があなた様にとっても良いと思われませんか」

 山大王はこのような言葉をあまり耳に入れようとはしませんでしたが、王氏はいつも彼の機嫌のいい時を狙って話しますので、だんだんその通りだと思うようになり、とうとう心を入れ替えて人としてまっとうに生きようと心を決めました。そこで店舗を借りて商売を始め、その商売も順調に進んでいきました。

 悪事からすっかり足を洗った山大王は、暇があると王氏と一緒にお寺へ行って念仏を唱え、それまでに犯した数々の罪悪を綺麗さっぱりと洗い流したいと願うのでした。

 そのようなある日、山大王は王氏ととりとめなく世間話をしていました。

 「俺はね、お前と一緒に生活するようになって、そのお陰で商売を始めたが、その商売も順調にゆくようになり生活がやっと安定した。おかげでどうにか心穏やかな日々を過ごせるようになった感じがしているのだね。その上、常に念仏を唱えるようになって因果応報の意味も悟れるようになった。だから心を入れ替えようと努めているのだが、却って昔のことをよく思い出す。実はかつて殺さなくてもいい二人の人を殺したことがあり、その罪を贖うためにも、善行を積んで彼らの霊を済度してあげないと安心できない」

 王氏はびっくりし

 「二人を殺したとは、どういうことですか。どんな人ですか。そのような話をこれまであなたから聞いたことがありませんでしたわ」

 「そうだね。一人はお前さんに会ったその日、お前さんと一緒にいたじいさんさ。お前さんも忘れられないに違いない。思い返せば、お前さんの旦那だったあのじいさんは、俺に仇したわけでもないのに、俺に殺され、その上、自分の女房までもわしのものにされてしまったのだからきっとあの世でどんなにか俺を憎んでいるだろうなぁ」

 王氏は

 「それはもういいの。そんな昔の話。ところで、もう一人はどういう人だったのかしら」

 「もう一人のことはね、仏様も許してくれないかもしれないと思う。その男を殺して、俺は逃げたが、無実な二人の人間が冤罪によって処刑された。そのことも合わせると三人の命が俺と関わって死んでいる」

 「それはいつのことでしょうか」

 「二年近く前のことさ。私は賭けで失敗して一銭もなくなってしまったのさ。そのような訳で金になるものを盗もうと、夜、空き家を狙って近くの村に入った。丁度、ある家の戸の錠が掛けられていなかったので、忍び込んで見ると、男がベットでぐっすり寝ていた。さらに嬉しいことに、その男の足もとに金を入れた袋があった。俺がそれを盗み取ろうというところで男が目覚め、「コラ! 俺の金を盗もうとしているのか。それは義父から借り受けた商売の手元金にする金だ」と怒鳴りつけられた。そんなもんで俺とその男は金の奪い合いを始めた。男が大声で騒ぐので俺は怖くなり、たまたま足元に斧があったので急いでそれを手にして、男に向かって一振りすると、男は血を流して倒れた。俺は大急ぎで金が入った袋を背負い、逃げようとすると、男が動いたのでさらに斧を振って息の根を止めた。男が俺の顔を見ているので後日禍を招くと大変だと思ったからだ。俺はそのまま逃げ出した。その後、他人から聞いた話だと、死んだ男の妾ともう一人の男の若者が犯人として捕らえられ死刑にされたそうだ。悪いことをしたと胸を痛めているが、きっとその二人もあの世で俺を怨んでいるに違いないだろう」

 山大王が語るのを聞いた王氏は「あっ!」と心の中で声をあげ、血が頭に上って来ました。

 王氏は一生懸命気持を落ちつかせて

 「そうだったのか」

 と呟きながらも心では次のように思ったのです。

 「なんということなのだ!この男が私の夫を殺したのか。二姐とあの若い男性に冤罪を着せてしまった。これからどうしたらいいのか。私は真実を知って黙って、この男とこれからもずっと一緒に生活していけるのか」

王氏はその日一日中いろいろ思い巡らし、気持を塞いで過ごしました。

 翌日、王氏は山大王の隙を見て家を抜け出し、まっすぐ府庁に駆けつけました。

 その頃の府庁では新しい長官が赴任してきたばかりで、業績をあげようと心を砕いていました。

 長官の前で王氏はこれまでの一部始終を泣きながら話しました。王氏の陳情を丁寧に聞き終えた長官はさらにいろいろ細部に亘って調査を行い、一年前の事件が間違いなく冤罪だったことを明らかにしました。

 殺人の罪で山大王は逮捕され、尋問と拷問を繰り返した結果、隠しおおせないと悟った山大王は終に白状しました。

 山大王に死罪の判決が下され、書類が朝廷に送られました。半月ほど経つと、朝廷の聖旨が下りました。

 「強盗・山大王は人命を奪い、金品を奪い、無実の者にも累をおよぼした。律に拠って直ちに斬罪を行う。王氏は悪人に脅迫され、結婚したが、よく夫の仇を報じ、本当の罪人を告発した。犯人の財産は、半分官庁に没収し、半分は王氏のものとする」という内容でした。

刑を実行する当日、王氏は処刑場に行って、大王の首を貰って、亡き夫のお墓、二姐、及び若い男性のお墓に供え、大泣きしながら報告しました。
 その後、王氏は尼になることを決意して、自分の財産を尼寺に寄進して、自分も尼寺の人となって毎日朝夕今は亡き人々を供養し、お経を仏に捧げる日々を送りました。そしてそのまま尼寺で行を積み百歳の長寿で生涯を閉じたということです。      (終)
                                                                                              
注1:古代のお金、丸く真ん中四角い穴があり、紐で通して纏め、1000枚で一貫という。一貫はおよそ今の人民元の200円になります。
                                                                    


                         
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