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  媛媛講故事―46

怪異シリーズ 15    土中に隠したお金
                                 何媛媛


   
  大昔、或る村に周という秀才がいました。或る年、周秀才は科挙試験のため、都に行こうと思っていました。「試験に合格して役人になるチャンスが得られればいいなあ」と思う度に嬉しくなる一方では、自分が家を離れて妻と息子二人だけ残すことを思うと、残された二人の日々の生活を心配する思いでいっぱいになり決心が鈍るのでした。

 それで妻と相談し、家族三人そろって一緒に上京しようと決めました。しかし、ひとつ困ったことが有りました。

 実は、周秀才のお父さんが世を去った時に、沢山のお金を残してくれました。昔のお金と言うと、銀の塊です。あんな沢山の重い銀を持って上京することは出来るわけがないのです。では、家族みんなでこの家を離れるとしたら、お金はどうすれば良いでしょう。悩みに悩んで考えた末、良い方法を思いつきました。当座の生活に使うほどの細かいものは持って行き、残りの大量の銀は裏庭にある古い土塀の下に穴を掘って埋め込むことにしました。

 全てのことを片付けてから、周秀才は家の番人には番人がこれからの生活に必要なお金を与えて、そして次のように言いました。

 「このお金は私たちが留守の間の生活に使ってください。その代わりに、この家を良く見守ってください」 と言って、家族を連れて上京しました。

 周秀才一家が離れたおよそ半年後、大変なことが起こりました。

 村に祭が有り、この家の番人が見物に行って、帰って来ると家が泥棒に荒らされ、運び出せる家財や、主人から与えられたお金が全部盗まれてしまっていました。これからどうすれば良いのでしょう?主人に知られたらたいへんだろうと思うと悔しくてなりません。

 番人は、主人から責任を問われ叱責されることを恐れて、いろいろ考えた末、逃げてしまうことを選びました。でも、遠くへ逃げるには、お金が必要なので家の何かを売ってお金に換えようと考え、裏庭のあの古い土塀の土レンガを売ことにしました。

「あの土塀はもう古くて役に立っていないのだ。けれども土塀の土レンガはまだ使えるから、土レンガは買う人がいるかもしれない」

 番人は町に出かけて行き、土レンガを買いたい人がいるかどうか探して見ました。そして間もなく、賈仁という壁作りの労働者に会いました。

 「どこか土レンガが欲しい家があるのかい?」

 と番人がに訊ねました。

 「えい、知っているともよ。ちょうど壁を作ろうという家があるのだ」

 「それでレンガが欲しいっていうのか?」

 「それはあたりまえのことだぜ」

 「欲しいっていうなら、家に要らない土塀がある。それを解体して、レンガを売りたいのだ。どのぐらいで買ってくれるのかい?」

 と二人はあれこれと交渉し続け、最後に双方が満足できる形で話がまとまりました。

 やがて賈仁は、籠やスコップなどの道具を持って周秀才の庭に行き、その土塀を解体して、土レンガを自分の住宅までに運ぶことにしました。そして賈仁が周秀才の庭に着くと番人が場所を指して

 「ここだ。自分でやりなさい。私は前庭の母屋にいる。何かあったら呼んでください」

 と言って、賈仁を一人残すと、前庭の方へ帰って行きました。

 賈仁は働き始め、壁から少しずつ土レンガを外して行きました。壁がだんだん低くなって来ましたが、賈仁は頑張って更に壁から土レンガを外して行くと壁の根元に小さな穴が開きました。不思議に思ってその穴を掘ってみますと、穴はどんどん広がって中から石の板が現れました。賈仁は好奇心から満身の力を込めてその石の板を外しました。そして中を覗いてみますと、なんと、ぴかぴか光る銀の塊が一杯詰まった石釜が埋められているではありませんか!

 賈仁はびっくりして口を開いたまま腰を抜かしてどさりと地面に座り込んでしまいました。目の前の情景がにわかに信じられず、目を何回も拭ってみました。それでもやはり信じられません。

 「これって本当だろうか。見間違えってことではなかろうか?何回見直しても沢山の銀の塊が目の前にあるんだけどよ。生まれてから、まだこんなに沢山のお金を見たことがなかったけど」

 賈仁は、呆然とただただ銀を見つめていました。暫くしてやっと我に返りました。

「どうしたら良いだろう、こんな沢山のお金を」

 とわくわくしながら考えました。

 「よし、分った。銀は俺の籠に入れて、その上に土レンガを乗せて運べば、誰にも分らないだろう」

 そこで、賈仁は銀を籠の底に入れ、その上に、土レンガを隙間なく並べて確認してみました。外見からは確かにレンガだけのように見えます。

 こうして、賈仁は、天秤棒で籠を担いで、同じようにして何回も往復し、こっそり石釜の中の銀塊を全部自分の家に運び込みました。

 賈仁は、元々とても貧乏な人間でした。たった一人でぼろぼろの家に住んで、毎日、庭壁を作るほかに人の為に水を運んだり、薪を切ったり、畑仕事の手伝いをしたりしてどうにか今日を生き、明日はどうなるのか分らないというその日暮らしを続けて来ていました。とは言え、貧乏な暮らしの中でも金持ちになった夢は良く見ました。夢の中では、賈仁は豪華な服を着て、見事な馬に乗り、立派な屋敷に住んでいました。しかし、目が覚めればなにもかも変わらず依然として貧しいままの有様で、町の人々からは見下げられ、「貧乏人」と呼ばれて来ました。

 今日は夢ではなく、突然本当に沢山のお金が自分のものになって嬉しくて嬉しくてどう使えばいいのか分らなくなりました。そんな状態が2、3日続いた後興奮状態からどうにか自分を取り戻しました。そして決して皆の前で変わった様子を見せてはいけないと気が付きました。

 賈仁は先ず小さい商売をやりはじめ、月日を経て小さい家を買い、お嫁さんを貰いました。

 外目にはどうやら、商売でちょっと儲けたように見せかけました。

 更に一年を経て、大きな屋敷を建て、広い畑や船を買い、酒屋や、質屋や、油屋などの商売を次々と始めました。町の人々は、彼を羨ましく思うと同時に尊敬するようになり、「賈員外」(註)と呼ぶようになりました。でも、一つだけ思うようにならないことがありました。それは、結婚して何年経っても、子供に恵まれないことでした。

 賈仁の知り合いに、陳という、人に頼まれて商売の帳簿を管理したり、子供に文字を教えたりする顔の広い人がいました。ある日、賈仁は陳さんに、

 「子どもがいなければ、誰が家業を受け継いでくれるのだろうか?私はどうしても子供が欲しいのだ。お金で子供を買うことはできないだろうか?」

 と尋ねました。

 陳さんは、最初は賈仁の言葉をあまり気に留めていなかったのですが、賈仁は陳さんに同じような言葉を2度も3度も繰り返しました。

 「本気で子供が欲しいですか?」

 「本気ですよ。何とかお願いしたいのだよ」

 「お金で買うのですか?」

 「お金はいくら掛かってもよい。女の子でも、男の子でもどちらでもいいのだ」

 「分かりました。それではお任せください。貧しい家の親は子供を裕福な家に貰って欲しいと思うことが良くある。時間をください」

 と陳さんが承知しました。       (続く)

【註】
賈員外:「員外」は、中国語では「地主」や「土地の
    有力者」を指す。「賈員外」は「賈大尽」と    いうような意味合いになる。

【註】
「童養嫁」:中国に古くから伝わる習わしの一つ。将来息子の嫁にするため、女の子を子供の時から、金品と引き換えに引き取り、息子の面倒を見させたり、家事の手伝いをさせたりして、二人が成人してから挙式を行う。

                                                                    




                         
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