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  媛講故事―39

怪異シリーズ 9
                                   
不思議な夢・その一                     何媛媛


 
 蔣済という将軍の妻はある夜、すでに死んでいる息子の夢を見ました。夢の中で息子は涙を浮かべて言いました。

 「母上、私は父上、母上のいらっしゃる世界と別れてひとり冥界に住み、寂しい日々を送っています。生きている間は私は将軍の息子として、なにひとつ不自由のない幸せな生活をしていましたが、冥界に住む今の私は、泰山の下っ端の役人として、人々に仕え、苦労の多い日々を過ごしています。その仕事の辛さは言葉では言い表すことができないほどです。ところで、最近噂に聞いた話ですが、泰山神を祀る廟の西側に孫阿という、間もなく死ぬ人がいます。その孫阿が死んだら、私の住む冥界の長官に封じられることになっているそうです。それで父上にお願いして頂きたいことがあり、母上のもとに参りました。母上から父上にお願いして、父上の息子である私にもう少し楽な仕事をさせて欲しいと、この孫阿に頼んで頂けませんか」


 妻はここで驚いて目が覚めました。この夢のことを将軍の夫に伝えましたが、将軍は「あり得ない話だ」と言って、全く信じませんでした。

 翌夜、妻はまた息子の夢を見ました。

 「今日私は、新しく赴任される孫阿長官を迎えに参りました。泰山の廟の下に泊って、仕事の合間を利用して母上に会いに来ました。明日の正午に新しい長官は出発され、私はお供して参ります。仕事はやりきれないほどありますので、これからは母上にお会いしに来ることは出来ないと思います。ぜひ私の願いを父上に伝えてください」

 息子は再び母親に頼み、孫阿の姿をこと細かに描写して母親に話しました。息子は孫阿についてとても詳しいようでした。

 翌日、妻はその夢をまた将軍である夫に報告しました。将軍は半信半疑ながら

 「夢というものをどこまで信じてよいか分からぬが、息子が再度夢に現れてそういうなら、息子のために、頼んでみても良いかもしれぬなあ」

 と言いました。

 そうして、将軍は部下を派遣して、泰山神廟の周辺に孫阿という人が住んでいるかどうかを調べさせました。その結果、孫阿という人が本当に住んでおり、孫阿の姿はまさに息子の言う通りでした。

 将軍は吃驚仰天し、涙を流しながら言いました。

 「我が息子よ、そなたの言うことを信じず済まなかった…」

 将軍はさっそく孫阿を招いて、息子の夢のことを詳しく話しました。孫阿は自分がもうすぐ死ぬであろうことは泰然として受け止めましたが、夢のことは信じられないような様子でした。

 「息子さんの頼みをきいてあげられるかどうか今はなんとも申し上げられませんが、しかし、もし私が本当に死んで、泰山の長官になれたとしたら、必ず力になって差し上げましょう。しかし、息子さんにはどのような仕事をさせたいと思っていらっしゃるのですか?」

 「息子は、自分が興味を持てる、楽な仕事であれば満足だと思う。是非何とかよろしく頼む」

 と将軍が答えました。

 孫阿は将軍の息子についての依頼を承諾すると帰って行きました。

 将軍は、孫阿についての情報をすぐ知ることができるように、泰山神廟のあたりに自分の兵士を配置しまた。

 翌日の朝、孫阿は胸の痛みで苦しんでいるとの情報が届きました。そして、正午になると、孫阿は息子が告げた通り本当に亡くなったという部下からの報告が入りました。

 将軍は「息子が若くして死んだことを思うと可哀相でたまらないが、その魂が今も家族の許にいるようで慰められる」と言いました。

 一ヶ月後、将軍の奥さんはまた息子の夢を見ました。

 「母上、私の仕事は以前よりずっと楽になりました。ご安心ください」

と告げました。その後、将軍の妻は再びそのような夢を見ることはなくなりました。



                               
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