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  媛媛講故事―29

                                 
  八仙の伝節 
                                   
                                八仙、海を渡る ②            何媛媛


 竜宮で休んでいた竜王は、海上が騒がしいので兵士に調べさせたところ、八仙たちが打ち揃って竜宮を目指してやって来るとのことです。しかし、自分の力を信じている竜王は慌てず、自分の身体を龍の形に変えて海面から身体を乗り出し眺めてみますと丁度拍子木に乗った藍采和が近くにやってくるところでした。竜王は大きな口を開けて藍采和の拍子木を奪うと海底に戻って行きました。
実は、竜王に奪われた藍采和の拍子木は、藍采和と共に長い修業を積んだもので、これまでに天地及び日や月の精華を吸収し、凄い力を持つようになっていました。

 竜王が龍宮に拍子木を持ち帰ってくると、もともと美しく耀いていた龍宮は、拍子木が吸収した日月の力でいっそうどこもかしこもキラキラと眩しいばかりに耀き、華麗に見えるようになりました。竜王は有頂天になり、兄弟達や、親友達を招いては龍宮のあちこちを一緒に巡って見て廻りました。

 それでは藍采和はどうなってしまったのでしょうか?藍采和は突然拍子木を奪われて海に落ち、竜王の部下に捕まえられ逃げることができないように閉じ込められてしまいました。

 突然藍采和の姿と彼の拍子木が海に引きずり込まれたのを見た海上の仙人達は、慌てまた焦りました。呂洞賓はこの辺りの海は東海の竜王の勢力下にあることを知っていましたので、藍采和とその拍子木を見失ったのは、きっと東海の竜王の仕業と考え他の仙人たちとどうしたらよいか相談しました。そして、まずは呂洞賓と鉄拐李が龍宮に行き竜王に談判することになりました。

 二人は竜宮に忍び込むと竜王の前に現れ、呂洞賓ができるだけ礼儀正しく落ち着いて竜王に話し始めました。

 「お騒がせしてすみませんが、藍采和と拍子木が龍宮に落ちたようです。どうか藍采和と拍子木を戻して頂けないでしょうか。そうしたら我々はすぐにもこの東海を離れようと思っています。どうかお願いします」。

  しかし竜王は何食わぬ顔で

 「なに?藍采和?拍子木?わしはそのようなもののことは聞いたこともない。何のことを言っているのだ」

 と言い逃れを言っていました。

 竜王の言葉を聞いた性格の荒い鉄拐李は怒りました。

 「この泥棒め!早く藍采和と拍子木を返せ!さもなくば、わしのこの鉄の杖が承知しないぞ!」。

 竜王は鉄拐李の言葉を聞くと「お前は何者だ!?このビッコ奴、竜王であるわしと話し合える立場だと思っているのか!?」

 と言い返しました。

 鉄拐李はいっそう怒って、手に持っている杖をびゅんびゅん振り回すと、龍宮は地震のようにゆらゆらと今にも倒れそうになりました。呂洞賓は鉄拐李に「無礼なことはやめなさい!」と窘め、また竜王に向うと再度重ねて頼みました。

 「竜王様、我々の仲間が何か悪いことをしたのであれば、どうかお許し下さい。藍采和と拍子木さえ戻してくだされば、これからは絶対竜王様のご領内に踏み込まないと誓います!」

 しかし竜王は依然として傲慢な口調で
 
 「わしは何も知らないと言ってるであろう!わしは忙しいのだ。さっさと帰っていけ!」

 と答えました。

 鉄拐李は竜王の無道ぶりにもうどうしても我慢できず、杖を再び大きく振り回すと、海の水は盛り上がって高い波を打ちはじめました。この頃には、他の仙人たちもこれ以上辛抱できない気持ちになっており、海上に荒々しく盛り上がる高い波を見て、きっと海の下で何かが起こっているに違いないと皆で龍宮に向うことにしました。

 竜宮へ打ち揃って向ってくる仙人たちを見た竜王は、仙人たちに負けないよう兄弟達、息子達を集めると、総力を挙げて対戦する体勢を整えました。この様子を見て仙人達も、竜王軍との戦いはもう避けられないと覚悟して、各自の自慢の宝物を取り出して応戦し始めました。

 先ずは呂洞賓が剣を駆使して、龍宮の宮殿を幾つにも切り割き、鉄拐李が瓢簞から火を噴き出させると、龍宮は瞬く間に一面の火の海になって燃え上がりました。一方、竜王も竜王の宝物である「避火神珠」を駆使して火を鎮めました。このようにして双方入り乱れての、力互角の混戦状態が果てしなく続きましたが勝負はつかず、東海は泡立って高く黒い波が立ち、海の上空は真っ黒い雲で覆われました。

 折も折り、布教の道中にあった観音様が、東海を通りかかりました。あわ立つ不穏な海の表情を見て、海底ではきっと何かが起こっているに違いないと考えて尋ねました。

 「海の中で誰がこんなに騒いでいるの?」

 戦いに夢中になっていた八仙も竜王も、突然の観音様の声にびっくりして、暫し喧嘩を止めると海面に浮かび上がり、神妙に挨拶を送りました。

 「お騒がせして、すみません。」

 「お前達なのか。なんでこんなに騒がしいのか?」

 「八仙人がわしの龍宮を焼いてしまいまったのです」

 「そうではない。竜王が先に我々の仲間を連れ去り宝物を自分のものにしてしまったのだ」

 「いや、八仙らがわしの領分に侵入したのが先だ」

 と、各方とも自分の言い分を主張しました。

 観音様が八仙たちと竜王のそれぞれが口々に言うのを事細かく聞いた上で双方を説得し調停しました。そしてその結果、八仙達は龍宮を元の姿に戻すことにし、竜王は部下に命じて藍采和を解き放させ、自身も藍采和に拍子木を返しました。

 全てのことが目出度く終わった後、八仙達は観音様にお礼の言葉と別れを告げ、それぞれ自分の宝物を持って、波を踏み東海を離れました。(終わり)




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